<金口木舌>月桃の可能性に懸け


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 示し合わせたように冷え込むものだ。プロ野球の春キャンプが始まった。どんよりした空模様が恨めしく、暖かさを当て込んで来県した人たちに申し訳ない気持ちにもなる

▼沖縄の冬の寒さを呼び込むのが旧暦12月8日、ムーチー(鬼餅)のころの「ムーチービーサ」だ。ことしのムーチーは新暦1月24日に当たった。多く作った家庭でも、硬くなったムーチーを温め直して食べ切るころだろうか
▼餅を包む月桃(ゲットウ)は、独特の芳香がありムーチーに欠かせない。うるま市石川の仲村秀子さん(74)はその月桃を染め織りの素材にしている。作りためた作品の展示会が1月24日まで石川で開かれた
▼使える品種の選定、繊維の取り方などで試行錯誤を続けてきた。作業に適した季節の見極めなど「1年に一つを学ぶ」の繰り返しで、技法の確立に12年かかった。月桃の根で染め、まさに桃色となった絹糸で反物を織る。ことし25年目だが「まだ学ぶことがある」と言う
▼展示では月桃の糸も織り込んだ着物が衣桁(いこう)に掛けられ、帯も並んだ。会場全体が淡いピンクを発しているようだった。植物素材の染料でピンク色が出せるのは桜と月桃だけだそうだ
▼桜は花咲く直前の皮が用いられる。染め織り用の月桃の収穫もこの2月から。沖縄ならではの素材として月桃の可能性に懸ける仲村さんの情熱は、寒空の下に春の暖かさを感じさせる。