<金口木舌>性的虐待、禁錮175年の罪


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 部活に明け暮れた学生時代。けがで思うように練習に参加できなくなった友人が、「マッサージでよくなる」と別の部活の顧問に1人だけ呼ばれるようになった

▼卒業後、久々に再会した友人はあの時、胸を触られ、性的な話をされたと明かした。でも「誰にも言えなかった」と。怒りと悔しさ、何より彼女の苦痛を思い、叫びたくなった
▼被害を訴える証言に、同じ感情が湧き起こる。20年以上にわたり、治療と称して少女らを性的に虐待した米体操連盟の元スポーツ医師ラリー・ナサール被告。被害者は265人に上る。裁判では胸をかきむしられるような証言が続いた
▼ある女性は被害を警察に訴えた際、被告が「体に自信のなかった彼女が治療を誤解しただけだ」と弁明したことに「最低だ」と声を振り絞った。被害当時、15歳だった別の女性は「死んでしまおうと思った」と語った
▼医師という社会的信用を隠れみのに卑劣な行為を繰り返した被告。それを隠蔽(いんぺい)した組織。性暴力の背後には力関係と支配欲がある。指導者と選手、教師と生徒、上司と部下、仕事の取引先、家庭内。力の強い側がつけ込み、被害者は声を出せずにいる
▼証言に立った女性たちに、裁判官は「あなたは強く勇敢です」と寄り添った。被告に言い渡されたのは、性的虐待の罪で最長175年の禁錮刑。他の罪状でも判決が出た。罪は重く、消えない。