<金口木舌>復刻支えた情熱と無私の心


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 中島敦の「名人伝」は弓での立身を思い立ち、さまざまな修行に打ち込む若者の挑戦を描く。道を究める過程のユニークな鍛錬が読ませどころだ

▼未読の方のために修行の内容には触れない。師からの「まばたきするな」「小さなものが大きく見えるようになれ」との課題に荒唐無稽と言うべき訓練で挑む。この道と思い定めた人の執念がすさまじい
▼道は異なるが、同じように一事を究めんとする人の気持ちの強さに打たれた。うるま市浜比嘉島の漁師の依頼で伝統の潜水マスク「旭面」を復刻させた嘉手納町の杉浦武さんのこと。数十年前に生産中止となっており、4年をかけてゼロから完成させた
▼潜水器具などを扱う店を営む専門家だが、修理ではなく、復刻は困難を極めた。上京するたびに町工場などを回ってどうにか金型を見つけ、関係者も捜し出した。少しずつ前へと進めた。資金協力も得たが、持ち出しもあった
▼当初は断った。危険も伴う漁で、慣れた道具を使い続けたいとの漁師らの頼みにほだされた。ものづくりで応えようという思いが杉浦さんを突き動かした
▼腕を見込まれた職人の心意気だ。請われたからには持てる技、知識を存分に発揮したいという思いだろう。自らの仕事への厳しい向き合い方もうかがわせる。多くのことを考えさせるが、誰かのためにという無私の心がひときわ輝きを放っている。