<金口木舌>まだ続く「奇妙な現実」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 駐留軍兵士が闊歩(かっぽ)する街を取材した写真家の東松照明さんに「とつぜん与えられた奇妙な現実 それをぼくは〈占領〉と呼ぶ」という一文がある。敗戦国日本の原風景ともいえる米軍基地への拭いがたい違和感である

▼雑誌連載で記したのは1960年。その9年後、東松さんは沖縄を訪れ「沖縄に基地があるのではなく基地の中に沖縄がある」と題した写真集を編む。「奇妙な現実」が鮮明に迫ってきたのであろう
▼今日の沖縄はどうか。「基地の中に沖縄がある」が例え話では済まないような現実が横たわっている。敗戦後、焼土に立ち尽くす少年に立ちはだかった金網の威圧感は消えることはない
▼浦添市の国道58号の拡幅に伴い、今年3月までに牧港補給施設の一部が返還される。渋滞緩和につながれば幸いだが、基地の金網はなくならない。沖縄防衛局が金網の移設工事を実施した。それが奇妙なのだ
▼国道から離れた場所に出来上がった真新しい金網は威圧感が増しているように見える。金網の前には提供区域と民間地の境目を示す防衛省の赤い石柱が等間隔で立つ。近寄る者を拒むかのようだ
▼新しい金網は「まだまだ全面返還というわけにはいかないよ」という日米両政府のかたくなな意思の表明にも思える。当面は「奇妙な現実」と付き合わなければならぬらしい。復帰前から変わらぬ沖縄の原風景だ。