<金口木舌>人材育成の長期戦略


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 第一生命の「大人になったらなりたい職業調査」によると、男の子は「学者・博士」が15年ぶりに1位。「がんを完璧に治したい」「ロボットを作りたい」などが理由だ。日本人のノーベル賞受賞が続いたことが背景にある

▼ただ、現実は厳しい。博士号(ドクター)取得後、期間限定の研究員に就く「ポスドク(ポストドクター)」が増えている。多くの学費を投じて懸命に学んでも、大学や企業で正規の職に就けない
▼国は1995年から科学技術立国を目指す施策で博士号を量産した。一方、大学は少子化でポストを増やせず、企業も景気低迷に伴い研究開発費を削減した。そのミスマッチが拡大した
▼先月、京大iPS細胞研究所の36歳の男性助教が論文データを捏造(ねつぞう)する事態が発覚した。助教は「図の見栄えをよくしたかった」と言う。不安定な研究費や雇用が背景にあるとの指摘もある
▼大学院卒の主人公が就職難に遭い、「契約結婚」の道を選んだ人気テレビドラマ「逃げ恥」を思い出す。大学や企業は、基礎的研究よりも、すぐに利益につながる研究開発を優先する傾向が強まっているという
▼目先の利益にとらわれ、技術変革をもたらす逸材や研究を逃しているのなら、問題だ。人材確保は長期の視点も必要である。「学者・博士になりたい」と目を輝かせている子どもたちの夢に応えるためにも。