<金口木舌>再チャレンジできる社会を


この記事を書いた人 琉球新報社

 IT企業が集まる米国シリコンバレーには「Fail Fast(早く失敗しろ)」という言葉がある。早い段階で失敗することは、次の成功につながるという意味である

▼平昌冬季五輪が今日で終わる。日本は過去最多のメダルを獲得した。メダリスト一人一人を見ると、過去にけがをしたり、前回の五輪で涙をのんだりとそれぞれ挫折経験がある。その経験が今回のメダルにつながっている
▼ハーフパイプの平野歩夢選手は、昨年3月に左膝の靱帯(じんたい)と肝臓を損傷し、全治3カ月のけがを乗り越えての銀。スピードスケートの小平奈緒選手は過去2回の五輪では個人種目でメダルを逃し、3度目にして金メダリストとなった
▼シリコンバレーのビジネスの失敗と成功、スポーツ界での挫折と栄光。その一握りの成功者の陰には、その数十倍の人がもがき苦しみ、今も乗り越えようとしている。挫折を知らないエリートより、どん底を知る苦労人に人間味を感じる
▼一方、シリコンバレーと違って、日本のビジネス界は敗者復活が難しいと言われる。失敗し借金を抱え、ホームレスにならないとは限らない、と思うと挑戦意欲は衰える
▼国会で論議されている裁量労働制は、頑張っている人をさらに過労死まで追い込まないか懸念されている。議論すべきは裁量労働制よりも、再チャレンジできる社会の構築だろう。