<金口木舌>チャイナ・シンドローム


この記事を書いた人 琉球新報社

 警告音が館内に鳴り響き、「安全地帯に待避せよ」のアナウンスが流れる。場所は原子力発電所。核燃料の炉心溶融寸前という重大事故が発生。制御室にいる責任者の額に汗が滴る。米映画「チャイナ・シンドローム」の1シーンだ

▼東日本大震災発生の前と後では、この映画の印象はずいぶん異なる。映画は1979年に公開された。その12日後、米ペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所で事故が起こった。現実を予見した映画として当時話題になった
▼7年前のきょう11日、福島第1原発が地震と津波によって制御不能に陥った。映画が現実となってしまった。帰還困難区域に指定されている住民は、いまだに帰れる見通しは立っていない
▼全国世論調査では、原発の今後の在り方について「段階的に減らして将来的にゼロ」が64%、「いますぐゼロ」が11%と、合わせて75%に達した。ドイツやイタリアは脱原発を決めたが、政府は原発の再稼働を進める
▼「原発はあらゆる事故を想定して造られている」「安全な管理下にある」。映画の中で電力会社の幹部が発するせりふは震災後、どこかで聞いた言い回しと全く同じだった
▼チャイナ・シンドロームとは、溶けた炉心が地球の裏の中国に達するという意味の造語。現実はその言葉が軽く感じるほど、多くの人の人生に今も影を落としている。