<金口木舌>音楽でも支援の輪


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 作家の赤川次郎さんはクラシック音楽への造詣が深い。オーケストラを聴く楽しみは、大勢の楽団員が個人的にはさまざまな事情を抱えながら、一つの曲を仕上げることにあるという。雑誌のコラムでつづっていた

▼周りの出す音を敏感に聞き取り、自らの音を合わせて曲を響かせるのが合奏だ。そういえば、英語の「concert」には演奏会のほかに「協調」の意味がある
▼琉球交響楽団が学習支援教室に通う児童、生徒と北谷町でコンサートを開いた。楽団員が一般から提供された金管楽器をボランティアで教えている。その発表の場だった
▼家庭の事情で音楽を諦めかけた子がこの支援で継続できた例もあった。楽団員の田中孝子さんは「目を合わせなかった子どもが、練習を楽しみに準備して待っていてくれるようになった」と積極性やコミュニケーション力の変化に目を見張った
▼教室に軽食を無償提供している町内の社会福祉法人が会場を提供した。演奏を聴いた高宮城克理事長は「人生にはこれからも楽しい舞台がある」と語り掛け「ただ、一人では生きていけない。困ったら周囲に助けを求めて」と伝えた
▼子どもたちを支える輪を大人たちが協力し合って広げていた。出演した児童、生徒は音楽の楽しさとともに、地域の包容力を感じたことだろう。演奏を終えた晴れがましい表情がまた大人たちの力になる。