<金口木舌>「どう生きるか」のヒットと「こう生きる」決意


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ある小学校の卒業式に出席すると、卒業生がそれぞれなりたい職業を大書したものが張り出してあった。「サッカー選手」「白バイ隊員」などに交じり「ユーチューバー」もあった

▼撮影した映像を動画投稿サイトに載せて収入を得る人のこと。アイドルを超える人気だというから、いまどきを反映した夢である。こういう世代に81年前の小説が受けている
▼「君たちはどう生きるか」の漫画と小説新装版の大ヒットだ。原作は1937年に出た。昔の作品を手に取るユーチューバー世代を思うと何かホッとする。作品が卒業式のあいさつに引用されることもある
▼沖縄少年院での卒業証書授与式で渡辺玲子院長も触れた。在院中に中学卒業を迎えた少年らに証書を渡す場だ。院内での義務教育で学習の習慣を身に付けてきた。渡辺院長は学ぶ楽しさを知り始めた少年らに「勉強するだけ世界は広がる」とエールを送った
▼重ねて、作品から「最後の鍵は、コペル君、やっぱり君なのだ」との一節を引いた。いくら知識を得ても、自分で考えなければ真理には触れられないと諭す場面だ。社会規範にも同様に向き合って、との助言だろう
▼少年らは償いの言葉に併せ、非行との決別と進学や就職の夢を語った。「僕たちはこう生きる」との強い意思に、聞いている身が引き締まった。それを受け入れる社会の包容力が問われている。