<金口木舌>「平成の終わり」の前に


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 天皇、皇后両陛下の来県を幾度か取材した。印象に残るのが1993年4月の初来県である。両陛下を迎える県民の姿が記憶に残る

▼糸満の全国植樹祭会場に向かう道沿いでのことだ。80歳くらいのおばあさんが歩道にいすを持ち出し、どかっと座って両陛下の車列を待った。突拍子もない行動に驚いた
▼こちらは一瞬の出来事だった。両陛下を待つ市民が居並ぶ県庁前の道路を車列が通過する直前、一人の女性が警察官に拘束された。平和団体で活動していた女性の怒りに歪(ゆが)んだ顔を思い出す
▼皇太子の時代を含め11回を数える沖縄訪問は「慰霊の旅」という性格を帯びてきた。迎える沖縄では昭和天皇の戦争責任や沖縄の長期占領を米国に伝えた「天皇メッセージ」の問題が議論された。皇室と沖縄の宿命的な関係だ
▼来年、平成という時代が終わる。戦争と米統治が残した米軍基地という昭和の負の遺産は、平成を超えて次の時代まで引きずることになる。沖縄に「特別な思い」を寄せてきたという両陛下は、平成の沖縄をどう見てきたのだろう
▼沖縄戦を知るであろう、あのおばあさんは両陛下の姿に何を感じたか。今も平和集会に顔を出す女性は、あの日の怒りを忘れてはいまい。許されるなら「最後の来県」を果たしたお二人にお聞きしたい。平成の30年、この国は沖縄を大切にしたと両陛下は思われますか。