<金口木舌>人間らしく生きること


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 コインの裏表という例えがある。便利になった社会に当てはめると、健康のために人が歩く光景は、車社会がもたらした。では、最近のスマホとにらめっこはどうだろう

▼岐阜県の岩田製作所は、その弊害にいち早く手を打った。「アナログな時間を大切にしてほしい」と、私用のスマホを使わない社員に毎月5千円の「脱スマホ手当」を支給、30歳以下には新聞購読料を補助した
▼すると社員間の対話が増え、教養が培われ、業績アップを後押ししたという。「社員の知恵と汗」を重視する岩田修造社長の経営理念は「社員を大事にすること」
▼12年前には、約70人の社員の常時1割を占めていた非正規社員を全員正社員にした。「聴くと全員が正社員を望んでいた」と言う。処遇への不満や将来不安は積極的な「知恵と汗」の妨げになる
▼裁量労働制の拡大など国会で議論されている「働き方改革」に、岩田さんは気になる点がある。「人間らしく生きる」という視点をどれだけ大切にしているかだ。「目先の利益やその場しのぎでは、根本的解決はできない」
▼自分さえ良ければいいという発想のまん延に、社会のいろんなひずみをみる岩田さん。沖縄の基地問題も「人間としてどうかという発想が大切だ」と語る。本土では安全保障ばかり強調される基地問題だが、コインの本当の“表”は「人間らしく生きる」という問題だ。