<金口木舌>きょうから新年度。


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 ミュージシャン山下達郎さんの「高気圧ガール」を初めて聴いた時、全身で「夏」を感じた。思春期という多感な時期だったから、では説明がつかないほど当時は衝撃を受けた

▼音楽は時空を超えて聴く人の感受性を揺さぶり、想像力を刺激する。似たような経験を久しぶりにした。ピアニスト辻井伸行さんのリサイタルだ。アンコールで辻井さんが即興で弾いた沖縄をイメージした曲は、青い海と風と沖縄の日差しを感じさせるメロディーで心を打たれた
▼辻井さんは生まれつき目が見えない。しかし生後8カ月にして、ショパンの「英雄ポロネーズ」を気に入り、演奏者の違いを聴き分けていたという
▼乳幼児の頃、掃除機の音といった生活音にも敏感で、音に反応して泣くことも多かったと、母親のいつ子さんは著書で語っている。音への敏感さを才能と捉え引き出したのは、本人の努力に加え、家族や周囲の力も大きかったのだろう
▼辻井さんにとって目が見えないのは、もはやハンディではない。彼にしか見えない世界観を演奏で描き出す。障がいの有無にかかわらず誰もが皆、自分にしかない秀でたものを持っているはずだと気付かされる
▼きょうから新年度が始まる。企業によっては新入社員が仲間入りする。彼ら彼女ら一人一人にも秀でた点がある。その才能を見いだせるかどうかは、先輩や上司の役目でもある。