<金口木舌>バベルの塔


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 人類が天に届くような塔を建てようとしたのに神が怒り、意思疎通できないようそれぞれ異なる言葉を与え、企てを阻止した。旧約聖書の創 世記に出てくる「バベルの塔」の一節だ

▼こちらは書き言葉だが、同じ日本語を記録したものなのに読めない。速記者は国会などの審議のやりとりを、読んでも理解できない特殊な符号で流れるように記録する
▼われわれ記者の取材ノートも独自の符号で記すことがある。早く書き取るために短縮し、防衛省だと「BE」、普天間飛行場は「フ」、辺野古新基地は「マルに辺」というように
▼そのノートに最近新たに「マルにク」が加わった。「繰り返しになりますが」を意味する符号だ。辺野古新基地建設の予定地の地質調査を巡り、環境団体が防衛省の担当職員から聞き取りした際、防衛側の“答弁”の多くが「マルにク」で始まった
▼予定地の活断層の認識についてただすと、「マルにク」の後「文献に記載がない」とかわす。軟弱地盤を示す調査の元データを求めると、「マルにク」に続いて「パソコンで処理されたものが出てくるので出せない」と答える。従来見解を繰り返すばかりで中身はない
▼バベルの塔で神は人間のごう慢さを戒めた。同じ言葉を繰り返して誠実に答えない防衛省の姿勢は、途中まで建設しながら完成しなかったバベルの塔の末路を想起させる。