<金口木舌>歌手の安室奈美恵さんに贈られた・・・


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 歌手の安室奈美恵さんに贈られた県民栄誉賞。記念品は金細工の房指輪とジーファー(かんざし)だった。「平成の歌姫」が琉装にうちなーかんぷーを結う姿はとても美しいだろう

▼首里が誇る伝統工芸の金細工。魚や扇など七つの飾りが揺れる房指輪は琉球王朝時代、貴族の婚礼に使われた。末広がりの福や食べ物に困らないようになど、一つ一つの飾りに意味が込められている
▼ジーファーは女性の分身のような存在。面長な顔、柔らかなうなじのライン―。デザイン自体が女性の姿を表し、シンプルな形に艶やかさが漂う。黒髪を結い上げて挿すジーファーは年齢に合わせて長さを調節し、生涯1本を使い続けたという
▼10年前、金細工職人の又吉健次郎さんの工房を訪ねた。又吉さんがこだわるのは、槌(つち)で銀棒をたたく音。「同じ物を作るために同じリズムで打ち鳴らさないと」。師である父のリズムや往時の女性の姿を思い浮かべ、作業を繰り返す
▼金細工の歴史は約500年前にさかのぼるが、廃藩置県や沖縄戦で道具や作品を失った。金細工だけではない。紅型など伝統工芸や文化財も戦火で焼き尽くされた。復興に心血を注いだ人たちがあるからこそ今がある
▼今年も慰霊の月を迎えた。戦前の沖縄はどんな姿だったのか、どんな音に包まれていたのか。伝統を受け継ぐ物を手にし、思いをはせる。