<金口木舌>新知事に贈る言葉


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 県知事選投開票日の3日前、読者から電話をいただいた。事実上の一騎打ちを演じた候補者2人が18歳だったころを振り返った本紙の記事を読んで心が癒やされたという

▼紙面に載った両候補の写真は初々しく、魅力的だ。「2人とも当選すればいいのにね。政府のせいで県民が対立してしまって」と話す電話の主。笑っているようだが、その口調から悲しさが伝わってきた
▼選挙のたび、県民は重い選択を突き付けられてきた。誹謗(ひぼう)中傷に心を痛めつつ投票所に赴いた人もいよう。かなうことのない「2人当選」は、うちなーんちゅの切ない願いにも聞こえた
▼知事選で県民は「新基地ノー」の意志を示した。ネット上のコメント欄には早くも「沖縄は基地固定化を選んだ」「振興策を止めろ」という心ない言葉が並ぶ。県民はこれからも、沖縄を傷つける無関心や侮蔑(ぶべつ)と向き合わねばならない
▼新知事が4日に就任する。順風満帆な航海とはいくまい。でも、逆風の中をヨットが進むことをよく知っているに違いない。沖縄の戦後史にも関わる困難な環境を生き抜いた人を、県民は新知事に選んだ
▼ひめゆり学徒隊の引率教師だった仲宗根政善さんは日記の中で沖縄の政治家の苦悩を「塩」に例え、「塩がなければ、沖縄はたちまち腐り、沖縄ではなくなってしまう」と記した。この言葉を新知事に贈りたい。