<金口木舌>魂の合唱


社会
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 〈「私を覚えている?」/女の子は涙を流しながら、そう言った/あっちへ行け、彼は怒鳴りつけた/「できないよ」と少女は言った/「私を殺したのはあなた」〉。米兵による犯罪の被害者として、性暴力の根絶を訴えるキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが書いた詩の一節だ

▼登場するのは夫に暴力を振るわれる妻。被害を隠して暮らしているが、同じような性暴力の被害者である少女が夫の罪を告発する。すると大勢の被害者が家に押し掛け「あなたは悪くない」と妻を励ます
▼今年のノーベル平和賞受賞者を見て、この詩を思い出した。2人は紛争下で性暴力が繰り返される状況を世界に告発し続ける
▼沖縄では1955年に少女が乱暴されて殺害された「由美子ちゃん事件」など、軍隊による性暴力が繰り返されてきた。高良沙哉沖縄大准教授は昨年の国際人権法学会で、市民生活と基地が隣り合う沖縄は「平時でも軍事性暴力が発生している」と指摘した
▼フィッシャーさんの詩で被害者たちの「あなたは悪くない」という合唱に背中を押された妻は、被害と向き合うことを決意する。この合唱は、声を上げられずにいる被害者、世界中の女性や自己決定権を侵害される少数者に向けられているのだろう
▼「魂の殺人」と呼ばれる性暴力を社会から根絶するため、被害者たちの魂の合唱に耳を傾ける。