<金口木舌>明治150年は「事だよ」


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 山之口貘の詩に曲を付け歌い、沖縄でも親しまれたフォーク歌手高田渡さんに「事だよ」という作品がある。この中で「明治百年」の祝賀ムードを取り上げている。1968年のことだ

▼慶応から明治へ元号が変わって100年を祝う騒ぎを「さあさあ 事だよ事だよ 明治百年は 事だよ」とはやし立て、「百年もよくもまあ 黙っていたのは 事だよ」とちゃかした。祝賀は唐突だったのだろう
▼沖縄はどうか。当時の本紙をめくっていると「明治百年」の文字がちらほら見える。那覇市内の宝石店は記念メダルを売り出した。民主団体は「正しい歴史意識をゆがめるもの」と抗議した。賛否両論あった
▼今年は「明治150年」。政府は諸行事を実施した。「明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは、大変重要だ」とは菅義偉官房長官の弁。それだけで良いか
▼歴史に学ぶのはいいが、「日本の強みを再認識」には引っ掛かる。沖縄、アイヌに対する明治政府の所業を忘れてはなるまい。アジア諸国に対してもだ。「明治の精神」をめでるだけでは済まぬ
▼「沖縄における明治百年の歴史は差別と屈辱の植民地的な歴史であったと私は考える」。68年末、本紙に載った投稿だ。政府による沖縄の植民地的扱いは相変わらず。50年何をやっていたのか。それこそ事だよ。