<金口木舌>支え合う社会を


社会
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 ブログサイトに血まみれの手首の写真が公開されていた。8年前に取材した20代の女性はネットの匿名性を生かして精神疾患の症状や自傷行為を告白し、同じ境遇の人々と励まし合った。しかし平穏な日々は引き裂かれた

▼「病名が多くてよかったね」。中傷する言葉が大量に書き込まれ、ブログは閉鎖に追い込まれた。女性は統合失調症を患い、腕や足などに無数の傷跡ができるほど自傷を繰り返していたが「えせ」などと攻撃された
▼当時はヘイトという言葉は定着していなかった。明らかにネットの匿名性を悪用して社会的弱者を追い詰めるヘイトそのものだ。弱い立場の人を痛めつける行為は被害者に身の危険を感じさせ、命を脅かす
▼県立博物館・美術館に、心の病と向き合う人々が作った絵画や手芸作品などが展示されている。25日まで開催中の第14回こころの芸術・文化フェスティバルだ。どれも自己に正対し生きることに真剣に向き合って制作された
▼受賞者が家族や施設職員らに支えられ、表彰式に参加する姿が印象的だ。県作業療法士会の比嘉靖会長は「作品を通して多くの人がつながり、豊かな地域づくりに結びついてほしい」と話した
▼冒頭の女性も、家族や主治医らに支えられて心の平穏を取り戻した。弱者を標的にする不寛容を徹底的に排除し、共に支え合う人間らしい社会をつくりたい。