<金口木舌>来年の激動に備えるために


社会
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 取材で訪ねる個人宅を探すため、ネットの地図で那覇市首里大名町辺りを眺めていると、住宅地の真ん中に滑走路のような一本道があるのに気付いた。距離にして300メートルくらいはある

▼何だろう。気になって足を運んだ。細い上り坂の先に一本道はあった。道幅も広い。しばらく歩いていると那覇市歴史博物館が据えた説明板を見つけた。「平良真地(てーらまーじ)跡」と書いてある。ここは競馬場跡らしい
▼スポーツ紙の競馬記者・梅崎晴光さんが著書「消えた琉球競馬 幻の名馬『ヒコーキ』を追いかけて」で、この競馬場を取り上げていた。毎年10月20日の神社例祭日には奉納競馬が催され、見物人が集まった
▼梅崎さんは「沖縄県下で最も由緒ある馬場は、その日、午前中からウチナーンチュの熱い吐息に包まれていた」と昭和初期の活況を描く。今、静かな住宅街に残る一本道に立ち、往時のにぎわいを想像するのは難しい
▼沖縄の黄金言葉の一つに「月(ちち)ぬ走(は)いや 馬(んま)ぬ走い」がある。やまとぅぐちで言えば「光陰矢の如(ごと)し」。馬と追っかけっこしても勝ち目はない。時はあっという間に過ぎて行く。せめて、行く年をしっかり振り返りたい
▼今年もあと6日を残すのみ。忘れがたい激動の年となった。いななきと歓声を古い競馬場跡に聞くような澄んだ心で、今年の出来事を見つめ直したい。来年の激動にも備えるために。