<金口木舌>イッパチを救った柔道家


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 1908年に移民船「笠戸丸」に乗船し、ブラジルに渡った「イッパチ」こと儀保蒲太。持ち前の度胸で賭博場経営などで財をなした。その生涯を描いた著書「イッパチの夢を賭ける」(比嘉憲司著)に、命を狙われる場面が登場する

▼サンパウロの賭博場で負けた腹いせに客に刃物で襲われそうになったイッパチ。近くにいた柔道家が足払いで暴漢を撃退した
▼柔道家の名前は青森県出身の前田光世。世界各地で他流試合をこなして柔道の強さを広めた後、ブラジルに帰化し、日本からの移民を世話していた。現地で伝授した寝技は「グレイシー柔術」として発展し、現在世界中で愛好家が増えているブラジリアン柔術の礎をつくった
▼五輪正式種目となり、競技化が進んだことで寝技よりも立ち技が重視されるようになった日本柔道。投げ技のキレは世界も認めるところだが、寝技に力を入れた外国勢に劣勢を強いられる場面も出てきた
▼「基本に立ち返れ」。よく言われる言葉だが、日本柔道も本来の技を見直そうとしている。女子代表の新年最初の合宿に、日本のブラジリアン柔術の第一人者、中井祐樹氏を招き、技術指導を受けた。他の格闘技との交流に積極的でなかった時代を考えると、隔世の感がある
▼来年は東京五輪。日本のお家芸・柔道が、立ち技でも寝技でも世界を圧倒する場面が見られるかもしれない。