<金口木舌>物語の舞台へ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 東京の学生と懇談する機会があった。初めての沖縄という学生もいたがよく調べている印象を受けた。聞くと周囲は違うという。地上戦が行われた事実さえ知られていないと嘆いた

▼沖縄の基地問題が県民の望む形で解決するには現状や県民の思いを広く知ってもらうことが不可欠だ。県民投票を行う意義もそこにある。最近、政治以外でも沖縄に注目が集まった
▼直木賞を受賞した真藤順丈さんの「宝島」が沖縄現代史を描いた青春群像劇だったからだ。沖縄題材の小説は多いが、ミステリー要素もある娯楽小説というのが特徴だ。県内では売り切れも続出している
▼県外出身者が描く沖縄が県民には気になる。東京出張で大型書店に寄ったが店頭になかった。聞くと売れているという。店員に理由を問うと「普天間の問題で注目されているから」と答えた
▼インターネット上で「宝島」の感想を探ると「沖縄のことを何も知らなかった」「なぜ県民が基地に反対するのか分かった」との内容も多い。物語は現在の沖縄には触れていない。だが、登場人物の言葉には県民の思いを踏みにじる日本政府への憤りもにじむ
▼現状を見据えた内容だと分かる。沖縄、日本、米国の関係性は今も何も変わっていない。「宝島」が沖縄を知るきっかけになればいい。学生らも言っていたが、来て初めて知ることも多い。ぜひ本を手に物語の舞台へ。