<金口木舌>振り払われた手

 訪ねる機会があった児童養護施設であぐらをかいて休んでいると、未就学の女児が両脚の間に座り込んで離れようとしない。職員が愛着行動と教えた

▼別の日、社会的養護にあった低学年の男児と一日を過ごした。家庭環境の詳しい情報は知らされていなかったが、男児の言葉に息をのむ。「僕は地獄を見たんだ」。その手を握ることしかできなかった
▼千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さんが死亡した。傷害容疑で逮捕された父親には虐待の疑いもある。心愛さん一家は2017年8月まで糸満市に住んでいた。その頃から「父が娘を恫喝(どうかつ)している」という情報はあった
▼心愛さんは転校先の野田市立小での学校アンケートに「お父さんにぼう力を受けています」と訴えた。市教育委員会はアンケートの回答書を父親に渡している。助けを求めた手は振り払われた
▼悲劇が後を絶たない。過去には関係機関が虐待防止マニュアルに従わない事例や、ワンパターンのマニュアル対応にとどまったため把握できない例もあった。救える命を見殺しにし、無力感と後悔が残るだけでいいのか
▼虐待事件に注目が集まるたびに制度は整備されているが、子の安全よりも運用する側の都合が優先されては無意味だ。最も安心できるはずの家庭が地獄。子どもたちの目に映るこの世界をつくり上げたのも、まぎれもなく私たち大人だ。