<金口木舌>地元のビールが・・・


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 国産高級車のテレビCMに「いつかはクラウン」というキャッチフレーズがあった。時は1980年代、日本がバブルに向かう少し前だ。小型車に飽き足らぬサラリーマンの心をくすぐる名文句だ

▼同じ80年代、わが沖縄にもウチナーンチュ魂を揺さぶる名文句があった。オリオンビールの「地元のビールが断然うまい」である。飲む前からその気にさせてくれた
▼工場のある名護市内の小売店で買うオリオンビールが一番うまいという説を幾度か聞いた。確かめたことはないが、真説だと思わせるような魅力を放つ県産品であるのは確かだ
▼オリオンビールの買収話が飛び出して1カ月半が過ぎた。県民の心中は複雑だ。記者に答えた富川盛武副知事の談話が象徴している。「県民にとってのアイデンティティーというか、エモーショナルな部分があるので…」
▼確かに「情のビール」だと言えそうだ。創業から60年余、沖縄の苦楽と悲喜に寄り添うように三つ星のビンとグラスがあった。これからもそうあってほしい。オリオンビールを愛する県民の願いであろう
▼BEGINが歌うコマーシャルソングの一節「ビールに託したウチナーの夢と飲むから美味(おい)しいさ」もすてきなフレーズだ。でも、かなわぬ夢もいとおしい。そんな夢のかけらをビールの泡と一緒に飲み干し、1人つぶやく。「地元のビールが断然うまい」