<金口木舌>都会の香り、島の悩み


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 ノースリーブのシャツに白いズボン。麦わら帽子にサングラスといういでたちの女性が歯を見せて笑っている。写真家の平敷兼七さんが1970年に与那国で撮った写真だ。題名は「里帰りした女性」

▼10年前に他界した平敷さんの作品を紹介する浦添市のギャラリーで見た印象深い一枚である。都会の香りをまとい、島に帰ってきたというシーンだ。同時期に撮られた島人との違いは歴然としている
▼「石油を買いに行く女の子」は72年の撮影。一升瓶を手に持った小学校低学年くらいの子が歩いている。店で石油を買った帰り道なのだろう。建物の壁には大手家電メーカーの看板が据えられている
▼日本復帰を控え、国境に近い南の島にも都会化、本土化の兆しが見え隠れしている。復帰前後の激動から距離を置き、都会から離れた沖縄の島々を巡ったという平敷さんは同じような兆しに触れたであろう
▼島々はその後、過疎化の波にさらされた。電化製品が家庭に入ってきた。服装も変わっただろう。道がきれいになり、橋や港ができた。それでも人が出て行った。「豊かさ」とは何かという解のない問いと離島は向き合ってきた
▼島を二分する混乱を経て、自衛隊が与那国に配備されて3年余。島は今も変化の最中にある。令和になって初の5・15が巡ってくる。復帰の原点とは何だったかという問いも続いている。