<金口木舌>口の中のSOS


社会
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 「いろはかるた」に用いられる句は地域によって異なる。「けふこえて」の「け」に「下戸の建てた蔵はない」を当てるのは尾張かるた。飲み助の強弁で、飲まずに金をためても蔵が建つことはないという

▼であれば、ある程度は飲んだ方がいいではないか、という身勝手な言い分だ。同じ「け」の項に江戸は「芸は身を助く」を当てる。言わずもがなだが、技芸が何かの折に役に立つの意
▼北谷町の歯科医、野原洋美さんが歯と体の健康について得意の漫画を使った本を出版した。開業後も漫画家になる夢が捨てきれなかった。患者に絵を描いて説明することもあるそうだ
▼そうすると診療方針への理解が早く、治療も順調だという。芸は身を助くを地で行く。仕上がった本を読んで驚かされた。永久歯が少ない子が増えているという。一生使うことになる乳歯のケアが大切だと説く
▼親の忙しさを気にしていたり、歯科医に親が責められることを嫌がったりで、虫歯を訴えない子がいることも描く。野原さんは「子どもの口の中のSOSに気付いてほしい」と訴える
▼高齢者調査で「やり直したいこと」を聞くと「歯を大事にする」が上位に入る。歯の健康は生活習慣病や認知症とも関わる。上戸の強弁ではないが「大切にしない人が悪い」では済まない。歯を大切にする習慣は、健康長寿復活に向けた勘所とも言える。