<金口木舌>長く咲け、秋の桜


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 鹿児島県の沖永良部島に残る組踊「高平良(たかてーら)」が約60年ぶりに地元で上演された。田里朝直作の「万歳敵討」を基にするとされる。兄弟によるあだ討ち物語である

▼芝居などのあだ討ちものの決まり文句は「ここで会ったが百年目」。百年かかっていなくとも、めったにない好機を言う。仏教で3千年に一度咲くとされるのは「優曇華(うどんげ)の花」。極めてまれなことに例えられる
▼そんな驚きだろうか。アイルランド公共放送が「ラグビーワールドカップ(W杯)史上、最も大きな衝撃の一つ」と報じた。開幕時ランキング1位の同国に日本が勝利したことだ
▼欧州6カ国対抗の伝統国をW杯で初めて倒した。W杯の歴史は約30年だが、日本のラグビー史で見れば百年かかった快挙である。「奇跡」との報道もあった。ただ、選手たちの心持ちは違っていた
▼バックスの中村亮土は「本心から勝てる感じはあった」、田村優は「勝つと信じていた」と語った。トップ選手が「これまでで一番きつい」と言うほど厳しい練習をこなしてきたがゆえの自信である
▼大切に受け継がれる組踊だが、300年前の初演を見ることはできない。しかし歴史に刻まれる桜ジャージーの躍進を私たちは目撃している。もう優曇華の花のミラクルではない。勝ち残れば1カ月後が決勝だ。この秋、スタジアムに咲く桜を少しでも長く見ていたい。