<社説>吉野氏にノーベル賞 人々の生活変えた偉業だ


社会
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 旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)が2019年のノーベル化学賞の受賞者に決まった。米国の大学教授2氏と共同受賞する。

 スマートフォンはもとより、ノートパソコン、電気自動車(EV)など、幅広い用途で利用されるリチウムイオン電池を開発したことが授賞の理由だ。
 軽量で繰り返し充電して使える上、高出力かつ高容量。リチウムイオン電池が実用化されたことは、社会のIT化を後押しし、人々の生活に変革をもたらした。電話やパソコンがコンセントなしで使えるようになったのである。
 それだけではない。温室効果ガスの排出削減にも電池が有用とされる。太陽光や風力のエネルギーを大量に蓄えることができるからだ。地球温暖化の解決にも役立つ。
 スウェーデンの王立科学アカデミーは「私たちの生活に革命をもたらし、人類に偉大な貢献をした」と最大級の評価をしている。
 共同受賞したマイケル・スタンリー・ウィッティンガム氏(77)=米ニューヨーク州立大特別教授=はリチウムを利用する電池の開発に早くから着手した。ジョン・グッドイナフ氏(97)=米テキサス大オースティン校教授=はコバルト酸リチウムを正極に使って大きな電圧を得ることに成功していた。
 この正極をベースに、特殊な炭素材料を負極として組み合わせ、電池の基本構成を確立したのが吉野氏だった。
 吉野氏は以前からノーベル賞の有力候補として名前が挙がっていた。自身も「ノーベル化学賞は(電池などの)デバイスの開発者にはなかなか順番が回ってこないが、回ってきたら必ずもらいますよ」と周囲に話していたという。業績の大きさを思えば、今回の受賞は当然だろう。
 日本人のノーベル賞受賞は27人目だ。自然科学系の3賞(医学生理学賞、物理学賞、化学賞)では24人目となる。昨年、医学生理学賞に選ばれた本庶佑氏(77)=京都大特別教授=に続く快挙だ。
 日本の研究開発の水準の高さを示しているが、将来的にも受賞者が次々と現れるかというと、疑問符が付く。
 国は「選択と集中」を旗印に、競争的研究費に重点を置き、国立大学に支給する運営費交付金を減らした。
 多くの研究で引用される質の高い論文数の世界ランクは低下している。企業研究費もリーマン・ショック後、大幅に減少した。
 「研究力」を高めるには、目先の成果にとらわれるのではなく、地道に研究が続けられる環境をつくらなければならない。
 博士号を取得しても安定した職が得られないような状況では、優れた研究者は育ちにくい。
 吉野氏も日本の大学の基礎研究力低下に懸念を示している。こうした声を政府は深刻に受け止めるべきだ。