<社説>75歳以上医療負担増 高齢者への配慮不可欠だ


社会
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 75歳以上の後期高齢者が支払う医療費の窓口負担を現在の原則1割から原則2割へと引き上げる方向で政府が本格的な検討に入った。

 74歳の人が75歳に到達した後、そのまま2割負担を維持してもらう案や、75歳以上全員を2割にする案があるという。どちらにしても、医療へのニーズが高い高齢者に対する厳しい仕打ちだ。
 本来、治療を必要とする人が経済的な理由で受診を控える事態を招きかねない。少なくとも経済的弱者に配慮する仕組みが不可欠だ。幅広く国民の意見を聞きながら、多角的に検討する必要がある。
 厚生労働省の発表によると、2018年度に病気やけがの治療で全国の医療機関に支払われた医療費(概算)は前年度を約3千億円上回る42兆6千億円に達した。団塊世代が後期高齢者に入り始める22年度以降、さらに膨張すると見込まれる。
 1人当たりの医療費は、75歳未満の22万2千円に対し、75歳以上は93万9千円で、4倍を超える。高齢になると、どうしても体に変調を来しやすくなる。医療機関を受診する機会が増えるのは避けられない。
 75歳以上の医療費の4割は現役世代が払う健康保険料からの支援金で賄われている。後期高齢者の負担を増やすのは世代間の公平性を確保するためだという。そうした政府の考え方を無批判に受け入れていいのだろうか。
 理由もなく好き好んで医療機関を受診する人はいないだろう。その必要があるから医師に診てもらうのである。後期高齢者の医療費が増えるので負担も増やす―というのは安易な解決策に映る。
 長い年月にわたって社会に貢献してきた人たちには敬意を払い、いたわりをもって対応しなければならない。現役世代が一定程度負担するのは当然だろう。
 医療制度改革では、年齢に関係なく患者の窓口負担に一定額を上乗せする「ワンコイン負担」制度の導入も論点として上がっている。
 国民全体の外来受診は年間約21億回。徴収額が一律100円なら年2100億円、500円なら年1兆円規模の窓口負担増が予想される。財政的にはプラスになるが、日本医師会などが反対し、導入は厳しい情勢だという。
 財務省は、12月中旬にまとまる全世代型社会保障検討会議の中間報告に、2割負担への引き上げを盛り込みたい意向というが、議論が尽くされているとは言い難い。
 連合は「年齢に関係なく、収入などに応じた負担割合にすべきだ」として、抜本的な制度改正を主張している。政府は実現の可能性を追求すべきだ。
 誰でも年を取れば高齢者になる。負担と給付の問題は国民一人一人に突き付けられた課題だ。一部の人たちの主張だけを聞いて判断するなら拙速のそしりを免れない。