そもそも「適地」という判断が根拠に乏しいのだから、ごり押しのしようがない。当然の帰結と言えよう。
地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場に配備する計画が見直される方向になった。住宅密集地に近いため批判があること、事前調査でミスを重ねた防衛省に対し地元の反発が根強いことが主な理由だ。
新たな配備先として検討の対象になるのは、新屋演習場を選定した過程で浮上した、秋田県内を含む別の19カ所とみられている。
防衛省は当初から、新屋演習場を「最適候補地」と強調してきた。だが、周囲にレーダーを遮る山があるため他の国有地を「不適」と断じた調査報告書の重大な誤りが、地元紙・秋田魁新報の報道によって6月に判明した。
防衛省が5月下旬に示した報告書には、検討した他の国有地に関し「防護範囲のシミュレーションを実施したところ、新屋演習場、むつみ演習場(山口県)のようにわが国全域を効果的に防護することはできないとの結果が出た」と記されている。この記述が正しければ、他のほとんどの場所では効果が不十分ということになる。どう整合性を取るつもりだろうか。
新屋演習場に配備された場合、地上イージスのレーダー施設から住宅地までの距離は700メートルしかない。レーダー波による人体への影響を懸念する声は根強い。住民地域との位置関係から見ても最適候補地とはなり得なかった。
にもかかわらず、政府はこじつけとしか思えない理屈で配備を推し進めようとした。不誠実極まりない。新たな候補地を選定したときに、政府の説明を額面通りに受け取る人がどれだけいるだろうか。
イージス・アショアの調達先は米国だ。取得費は敷地造成費や迎撃ミサイルの取得費などを除き、2基で4千億円以上と見込まれている。
候補地となった秋田、山口両県は、米ハワイ、グアムと北朝鮮を結ぶ直線上に位置する。米国を守るために導入されるのではないかともいわれてきた。想定される地上イージスの迎撃性能では、北朝鮮のミサイルに対応できないとの疑義もある。
高額な兵器を売りつけようとするトランプ米大統領を満足させるため、役にも立たない装備を買わされ、有事の際に攻撃目標となるリスクまで負わされるのでは国民はたまらない。計画そのものを白紙撤回すべきだ。
特筆すべきなのは政府関係者が「住民の理解が一番重要」(政権幹部)、「住民感情を考えると、新屋演習場が適地とは言えない」(陸自幹部)と述べている点だ。
そうであるのなら、県民投票で反対の民意が明らかになっている名護市辺野古の新基地建設に対しても同様の姿勢で臨むべきだ。不当な二重基準は許されない。