<社説>河井氏夫妻巡る疑惑 説明できないなら辞職を


社会
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 自民党の河井克行前法相の妻である河井案里参院議員が初当選した昨年7月の参院選を巡り、車上運動員十数人に法定上限を超える日当が支払われたとされる疑惑は、広島地検が公職選挙法違反容疑で夫妻の事務所を家宅捜索する事態に発展した。

 検察は夫妻の秘書を一斉に任意聴取するなど、捜査を本格化させている。全容の解明に全力を挙げてもらいたい。
 この問題は昨年10月に週刊文春の報道で明るみに出た。これを受けて法相を辞任した克行氏は「私も妻も全くあずかり知らない。今後、しっかりと調査して説明責任を果たしたい」と明言した。案里氏も「事実関係の把握に努め、説明責任を果たしたい」とするコメントを発表している。
 ところが夫妻はそれから2カ月以上も公の場から雲隠れした。家宅捜索があった日の夜、記者団の取材にようやく応じたものの、捜査中であることを理由に、疑惑に関する説明を避けた。
 当初「説明責任を果たしたい」と述べたのは、その場しのぎの出任せだったのか。国会議員としてあるまじき態度と断じざるを得ない。
 疑惑は、陣営から車上運動員への上限を超えた日当の支払いだけではない。選挙運動への支援を克行氏から依頼された男性に、案里氏が支部長を務める自民党支部が合わせて約86万円を支払った買収の疑いも浮上した。
 陣営が車上運動員に日当を支払う際、各運動員名義で日付や名目が異なる領収書を2枚作成して法定上限の1万5千円に収めたように見せかける工作をした疑惑もある。
 類似の事件は過去にもあった。車上運動員に1日当たり3万円の報酬を支払ったとして元秘書が有罪になった2013年の公選法違反事件だ。この時は、参院選に比例代表で立候補して落選した元参院議員に連座制が適用された。
 今回のケースは、誰が違法な報酬の支払いを指示したかが焦点になるが、案里氏の関与がなかった場合でも、連座制が適用されて当選が無効になる可能性がある。
 案里氏の選挙対策は事実上、夫の克行氏が仕切っていたと伝えられる。陣営内で公選法に違反する行為があったのか。事実なら克行氏や案里氏はどう関わったのか。国民の代表である以上、疑惑についてきちんと説明する責務がある。それすらできないなら議員の資格はない。辞職してけじめをつけた方がいい。
 夫妻に関し菅義偉官房長官は「自らの行動について説明責任を果たす必要がある」と述べたが、「桜を見る会」を巡る数々の疑惑に対し、安倍晋三首相が国会での説明を避けている中では説得力がない。
 法秩序の維持をつかさどる責任者だった政治家が、民主主義の根幹である選挙を巡り、不正に関与していたのだとすれば由々しき事態だ。任命した安倍首相の責任も厳しく問われてこよう。