<社説>児童虐待通告最多 家庭内の暴力見逃すな


社会
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 これだけたくさんの子どもが社会の保護を求めている。いち早く虐待の兆候をとらえ、対策を講じていかなければならない。

 県警が2019年に児童虐待事案で児童相談所へ通告した人数が1467人で、過去最多となった。前年の756人のほぼ2倍の人数だ。
 通告人数の増加は、県外で相次いだ虐待死事件などで児童虐待への社会的関心が高まっていることもあるが、この急増ぶりは異様だ。家庭という密室でいかに多くの子どもたちが苦しんでいるか、考えるとやりきれない気持ちになる。
 通告人数の中で7割を占めるのは心理的虐待の1067人で、次いで身体的虐待203人、ネグレクト(養育放棄)187人だった。性的虐待も10人に上った。
 心理的虐待の増加は、特に、子どもの目の前で配偶者や家族に暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」が虐待に当たるとの認識が社会に浸透しつつあるからだろう。面前DVは04年の改正児童虐待防止法で心理的虐待の一つに加えられた。直接暴力を受けなくてもDVを見聞きして育つ子どもは心身に傷を負い、成長後もフラッシュバックに苦しむなどPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することも少なくない。
 各地で起きた児童虐待事件ではDVが密接に関連していた。18年に東京都目黒区の船戸結愛ちゃん=当時(5)、19年に千葉県野田市の栗原心愛さん=当時(10)=が虐待死した事件では、国や県の検証報告は、いずれも父親による母親に対するDVの疑いと虐待を関連付けた対応が不十分だったと指摘している。
 県内でも19年のDV相談は1082件で過去5年で最多だった。家庭内の暴力を見逃してはならない。
 DV防止法では被害者を「配偶者からの暴力を受けた者」と規定しているため、シェルターなどに親と避難した子どもは単に「同伴者」とされ、支援の枠外とされる。国は児童相談所とDV機関との連携を強化する方針だが、親子ともにDVから逃れ、心的ケアが受けられるよう法整備をしなければならない。
 性的虐待が5年で5倍増になったことも大きな問題だ。子どもが自ら訴えづらい事案なだけに、隠れた被害が相当数あるのではないか。
 県は次年度から児相職員を6人増やし、初期対応に当たる部署をつくる予定だ。一時保護や相談業務に当たる児相の負担は増しており、体制強化は歓迎すべきことだが、それだけでは虐待をなくすことはできない。
 重篤な虐待の背景には貧困や社会的孤立、ストレス、疾病、障害が重複している場合が多いと専門家は指摘する。虐待防止には親を孤立させず、子育てに必要な経済的、心理的な支援が得られる体制が必要だ。