発生初期の過小評価が現在の感染拡大を招いた要因の一つと言えるだろう。新型コロナウイルスに対する日本政府の対応である。
なぜここまで広がったのか。まず指摘しなければならないのは中国関係当局の不適切な初期対応だ。加えて、世界保健機関(WHO)による緊急事態宣言の遅れが挙げられる。日本政府も危機感が乏しく、指定感染症の施行などが遅れた。対策が後手に回り、国内での感染拡大を許した側面は否めない。
クルーズ船での集団感染は、香港人男性の感染が1日に判明したが、乗客に個室での待機を求めたのは5日朝。この空白期間に感染が広がったとみられる。船内は感染しやすい密室空間だ。客室待機をもっと早く求めるべきだった。領海に入った時点で対策を要請できたはずだ。
日本政府の危機感は当初薄かった。「国内では人から人への持続的な感染は認められない」としていた厚生労働省の認識が一変したのは、中国への渡航歴のないバス運転手の感染が確認された時だ。バスガイドも感染が確認され、3次感染の疑いが浮上した。
政府チャーター機で緊急帰国し、検査で陽性だった3人のうち2人は無症状であることも判明した。「流行が認められている状況ではない」との政府発表文は1時間もたたないうちに「広く流行が―」に訂正された。厚労省の担当課長は無症状者からのウイルス検出は想定外だったと言う。そこに甘さがあった。
政府はチャーター機で帰国し発症していない人を帰宅させた。これに専門家から「もっと監視を強めるべきだ」といった指摘が相次ぎ、野党からも批判の声が上がった。
WHOも軽症者を検査対象とすることを推奨したが、日本政府は「感染疑い例がどんどん増えると混乱する」として慎重な姿勢だった。厚労省はその後、対策強化の方針に転じ、検査で陰性だった人にも最長2週間ホテルに滞在するよう要請する。
チャーター機派遣を巡っては、中国当局との調整が難航し出発がずれ込んだ。帰国者に8万円の費用負担を求めた後に撤回した。帰国者の健康状態の経過観察期間を2週間から10日に短縮し、再び12・5日に見直す事態もあり、対応が二転三転している。
新型肺炎にかこつけて憲法改正による緊急事態条項創設の機運を高めようとする自民党国会議員らの発言があるが、火事場泥棒に映る。現行憲法で十分対応可能だ。
政府は感染を過小評価せずに危機感を持って専門家の意見や知見を収集し迅速に対応すべきだった。検証し教訓にする必要がある。
観光業への打撃は大きく、観光立県の沖縄は特に深刻だ。ただ過度に恐れず、人権への配慮も不可欠だ。東京五輪も見据え、政府、国民が一丸となって、この危機を乗り越えるほかない。