<社説>アグー離島隔離開始 ブランド豚保全へ全力を


社会
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 沖縄本島で発生した豚熱(CSF)への感染を防ぐため、在来の希少種アグーを離島に隔離する作業が始まった。沖縄のブランド豚の保全に万全を期したい。

 県が14日、東村の農家が飼育する雄の4頭を那覇港からフェリーで久米島に運んだ。アグーは久米島町内の施設に隔離し、JAおきなわや地元農家が飼育や繁殖に取り組む。十分な飼養・防疫対策を講じてもらいたい。
 豚熱発生を受け、県は今月6日から沖縄本島の豚約24万頭に対するワクチン接種を始めているが、久米島に隔離するアグーには接種しない。沖縄の固有種アグーのブランドを守るためである。
 県は3月中に、将来繁殖に使うアグー計約30頭を久米島に移すが、久米島移送は本島全域で実施するワクチン接種を避けるための一時的な措置だ。最終的には別の離島に感染症の防疫対策を強化した専用施設を整備し、そこにアグーを移す2段階での離島隔離を計画している。
 県内ではアグーの純粋種が1100頭余り飼育されている。県はこのうちの50頭の隔離を目指していたが、養豚農家の生産活動に支障が生じることなどを考慮して、30頭にとどめた。
 関係者や有識者らによる県の会議では当初、50頭でも少ないとの意見もあったという。感染リスクを分散する観点からは、複数の離島に隔離する方が望ましい。
 沖縄戦で激減したアグーは戦後、血統の近いもの同士を交配させて純粋種を復活、頭数を増やしてきた。離島隔離に際しては、限られた頭数の中で近親交配が進まないかという懸念もある。
 私たちにとって豚やアグーは、歴史的にも文化的にも特別な存在である。
 琉球王国時代から養豚が盛んだった沖縄は数百年にわたり独自の豚食文化を育んだ。在来豚アグーは戦前、県内各地で飼われていた。豚は沖縄戦を経て激減したが、米ハワイの沖縄移民らが1948年に古里に贈った550頭が養豚業復興の礎となり、戦後の食生活を支えている。
 現在、アグー豚は県内畜産業の主力商品へと成長した。沖縄の特産品として国内だけでなく海外での人気も高く、近年は香港などアジアへの輸出実績も伸ばしてきた。このブランドは何としても守らなければならない。
 豚熱が発生していない離島への避難は有効だと評価できるが、対策は十分かどうか。今後も事業の進捗(しんちょく)を検証し、議論を継続してほしい。
 県内では今月12日に7例目の感染確認が発表されるなど豚熱が沈静化していない。ワクチンの接種開始で気を緩めることなく、今後も防疫や衛生管理の徹底に努めなければならない。そしてアジアで感染が広がるアフリカ豚熱(ASF)の侵入リスクなど、新たな脅威にも最大限の警戒が引き続き必要である。