<社説>辺野古訴訟県敗訴へ 司法の政府追従許されぬ


社会
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 司法が国の方針に一方的に追従するばかりでは国民の権利は守られない。三権分立が機能不全を起こしていると危惧せざるを得ない。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、県による埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の決定(裁決)は違法だとして、県が裁決の取り消しを求めた訴訟は、県の敗訴に終わる見通しになった。
 最高裁第1小法廷が、結論を変更する際に必要な弁論を開かないまま、26日に上告審判決を言い渡すことを決めたからだ。県敗訴とした福岡高裁那覇支部判決が確定する。全く納得がいかない。
 関与取り消し訴訟は次のような経過をたどってきた。
 埋め立て予定海域に軟弱地盤が見つかったことなどを根拠として県が埋め立て承認を撤回したのが2018年8月。これに対し沖縄防衛局は行政不服審査法に基づく審査請求を申し立てる。19年4月に当時の石井啓一国交相が撤回を取り消す裁決をした。
 県は、防衛局の審査請求は行政不服審査制度の乱用で、同じ国側の国交相による裁決は違法だと主張した。総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出たが、却下され、19年7月に提訴する。高裁那覇支部は同年10月、県の訴えを退けた。
 まず指摘しなければならないのは、「国民の権利利益の救済を図る」ことを目的とする行政不服審査法を、国の機関である沖縄防衛局が利用したことだ。私人へのなりすましにほかならない。
 公有水面埋立法は私人が埋め立てをする際は知事の「免許」を、国が埋め立てをする際は知事の「承認」を得なければならないと定める。私人は埋め立てた後に知事の認可を得て所有権が発生するが、国は埋め立てたことを通知するだけで所有権が得られる。
 一般私人では立ち得ない「固有の資格」を有する沖縄防衛局が、行政不服審査制度を利用することは、本来できないはずだ。
 しかも、埋め立て承認撤回の効力を停止させたのは、内閣の一員である国土交通相である。結論ありきの「出来レース」でしかない。
 こうした事実を過小評価する司法の判断は、国家権力の乱用にお墨付きを与えるに等しい。今や立法、行政、司法の三権が相互に抑制する仕組みが崩れ、行政権だけが突出するいびつな社会になりつつあるのではないか。
 そもそも、知事選で「県外移設を求める」と公約した仲井真弘多知事(当時)による13年の埋め立て承認は大多数の民意に逆行する決定だった。そのことは18年の知事選や19年の県民投票の結果からも明らかだ。これを是正する手段がないのはおかしい。
 公権力の恣意(しい)的な行使に歯止めをかける役割を司法が放棄したのでは独裁国家への道を開くことになる。独り沖縄だけに関わる問題ではない。