<社説>知事の旅行自粛要請 事態深刻に受け止めたい


社会
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 東京や大阪など大都市圏で新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している。それを踏まえ玉城デニー知事は26日の危機管理対策本部会議で「不要不急の県外への旅行についてはできるだけ自粛してほしい」と、県民に向けて初めて呼び掛けた。

 渡航の自由は大切な人権である。しかし今は人々の命と健康が脅かされる局面にある。渡航によって感染のリスクがある以上、知事の呼び掛けを深刻に受け止め、分別のある行動を心掛けたい。
 県内での感染事例は6例あり、県関係者では7人が確認されている。このうち直近で確認された3人は、海外あるいは県外に渡航歴があり、そこで感染した可能性が高い。こうした「移入例」が相次いでいることが知事による要請の背景にある。
 東京都では、感染者が1日40人を超えるペースで急増している。小池百合子知事は25日に会見し、不要不急の外出を避けるよう都民に呼び掛けている。その際、三つの「密」を避ける行動を都民に訴えた。換気の悪い密閉空間、多くの人の密集する場所、近距離での密接した会話だ。県内でも行動基準となろう。
 気になるのは政府をはじめ難解な専門用語を多用するケースが目立つことだ。
 「クラスター」や「オーバーシュート」「ロックダウン」といった片仮名の専門用語は、日本語で言い換えることができる。クラスターは感染者の集団、オーバーシュートは爆発的な患者急増、ロックダウンは都市の封鎖だ。
 日本語で表現できるにもかかわらず、なぜ難解な外来語を使用するのか。極めて不適切な対応だ。これでは感染症の脅威が国民に正しく伝わらない。早急に改めるべきだ。今ほど分かりやすく、丁寧な説明が求められているときはない。
 新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づき政府は対策本部を設置した。 政府に続いて、県も27日に対策本部を発足させた。直近の感染事例の特徴を踏まえれば、水際対策の徹底は欠かせない。検査態勢の充実も急ぐべきだ。
 世界的な渡航自粛の影響で県経済も観光産業を中心に危機にひんしている。企業の倒産も発生した。従業員の解雇や自宅待機も増え、数々の相談が労働組合などに寄せられている。休業補償など財政的なてこ入れを早急に講じなくては県民生活の基盤が崩れかねない。
 他県では医療関係者や患者がタクシーに乗車を拒否されるなど、不当な扱いを受ける事例も発生している。県内では感染者への脅しめいた言動があった。由々しき事態だ。
 感染者は世界で50万人、死者は2万人を超えたという。直面する難局に立ち向かうためにも、ワクチンや治療薬の開発などで国境を越えた英知の結集が求められている。