<社説>首里城再建で工程表 歴史学べる一帯整備を


社会
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 昨年10月に焼失した首里城の再建工程表を政府が決定した。2026年度の正殿完成を目指す。20―21年度に基本、実施設計を行い、22年度に着工する。焼失後は再建に向けた県民運動が起こり、県内外から多くの寄付が寄せられた。再建への道筋が示されたことは多くの県民の喜びだ。まずは歓迎したい。

 今後は正殿の再建を進めつつ、北殿や南殿など焼失建物全体の再建に向けた全体の工程を検討したい。さらに、これを機に、首里城周辺にある中城御殿(うどぅん)や円覚寺、首里城の地下にある旧日本軍の第32軍司令部壕など琉球・沖縄の歴史を伝える首里城周辺も含めた一帯の整備を図るべきだ。
 焼失した首里城については、国営公園であることを踏まえ、国が再建の工程表を作成した。前回の復元の際は設計に3年かかったが、今回は前回の設計資料が残っていることから2年に短縮された。大幅な短縮を期待する声もあったが、新たにスプリンクラーや防火設備を盛り込む必要があるとしている。
 工事は前回の3年から4年に延ばされる。城郭などが整備されたことにより作業スペースが狭隘(きょうあい)になっていることを理由に挙げる。
 再建に当たり危惧されたのは木材の調達であった。往時の首里城に使われたのは沖縄在来のチャーギ(イヌマキ)やオキナワウラジロガシだと推定されるがいまやこれらは希少材だ。前回復元時に使用したタイワンヒノキは伐採が禁止されており、直径の太い材木の調達が課題だった。今回、国産ヒノキなどの確保のめどがつき、工程表がまとめられた。
 正殿の再建に見込みが立った今、改めて首里城を中核とする一帯の「首里杜地区」を視野に入れたまちづくりに取り組むべきだ。
 県の首里城復興基本方針に関する有識者懇談会は、1986年に首里城公園整備計画調査で設定した首里杜区域を復興事業の対象にするべきだと提言している。
 首里杜は弁ヶ嶽を頂点に真嘉比川と金城川の両水系に挟まれた範囲で、文化財が点在し、自然環境豊かな場所だ。
 特に、旧県立博物館があった中城御殿は次期国王となる王位継承者が暮らした邸宅であり、戦前は国宝だった円覚寺、王家の別邸だった御茶屋御殿も周辺にある。
 首里城の地下につくられた第32軍司令部壕は、県民に多大な犠牲を強いた「戦略持久戦」を指揮した牛島満司令官らが作戦を練った場所で、沖縄戦の悲劇を知る第一級の戦跡だ。
 首里城は沖縄県民のアイデンティティーの象徴であると同時に、重要な観光資源でもある。再建、復元の範囲を首里城を中核とした首里杜一帯に広げることで、琉球王朝の繁栄から沖縄戦、戦後復興に至る歴史を学べる。首里城再建を機として、広い視野で考えたい。