<社説>新型コロナ米兵感染 地位協定の問題浮き彫り


社会
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 米軍は新型コロナウイルスの感染防止のためどのような対策を講じているのか。兵士は無防備のまま国内外を行き来しているのではないか。そうした疑念が拭えない。

 米空軍嘉手納基地第18航空団の空軍兵2人が欧州への渡航から戻った後、新型コロナウイルスに感染していることが判明した。米軍がフェイスブックで公表した。
 外務省沖縄事務所と沖縄防衛局の県への報告によると、2例ともPCR検査を受け陽性が確定した。このうち1人の家族も感染したことが確認されている。
 1例目の空軍兵は海外から戻った後、15日間の行動制限下に置かれていた。同基地の医療チームは接触者を特定し、濃厚接触した家族の行動も制限したとしている。2例目は海外から戻り、行動制限下に置かれているという。
 2人はどこで感染したのか。行動履歴はどうなっているのか。居住しているのは基地内なのか、それとも基地の外なのか。県民は確認、検証するすべがない。それだけに米軍には正確で詳細な情報を発信することが求められる。このままでは臆測だけが独り歩きしかねない。
 実際、米軍基地内での感染状況については、さまざまな憶測が飛び交ってきた。1月末には「基地内で感染者が出た」などとうわさが広まった。米軍がそれを否定する声明を出したこともあった。
 多くの情報が開示されず、基地はブラックボックスと化している。
 政府は中国、韓国、欧州の一部などに入国拒否措置を発動した。さらに米国や英国、中国、韓国の全土からの外国人について入国を拒否する方針を固めている。米軍もこの措置に従うべきだが、「抜け穴」になる恐れがある。
 米国では30日現在で感染による死者が3千人、感染者数も16万人を超えたという。米政権が感染拡大の防止に失敗したのは明らかだ。このような状況にあって、米国や海外との間を自由に行き来されたのでは、県民の安全が脅かされる。
 県は米軍や外務省沖縄事務所、沖縄防衛局に対し(1)行動履歴や濃厚接触者の状況、県民との接触の有無など情報の公開(2)米軍人・軍属等に対して密閉空間、密集場所、密接場面など集団感染の起こりやすい場所へ行くことを避ける(3)日本人従業員に対する感染防止に万全を期す―ことを申し入れた。
 日米地位協定に基づき、米軍は日本の検疫を受けず、米軍の検疫手続きが適用される。大きな問題だ。
 過去には海外から県内の基地へ戻る途中に米軍機が民間空港に緊急着陸し、搭乗していた米兵が検疫を受けずに外出していたことがあった。
 新型コロナの感染拡大で地位協定がもたらす危険性が改めて浮き彫りになった。県民の命や健康を守るためにも早急な改定が不可欠だ。