<社説>新型コロナ医療体制 感染爆発への備え怠るな


社会
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 新型コロナウイルスの猛威がとどまるところを知らない。世界の感染者は100万人を超えた。国内でもこれまでに2600人以上の感染が確認され、60人以上が亡くなっている。

 ただし、日本ではPCR検査の実施件数が他国に比べて少ないため、実際の感染者数はさらに膨らむとみられる。
 わけても増加が顕著なのは都市部だ。東京都では2日、新たに97人が確認された。1日ごとの感染者数としては最も多い。
 都が新型コロナ対応で用意している病床は約700だが、2日現在の入院患者は628人。このままのペースでいくと、すぐに満床になる。
 政府の専門家会議は、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5都府県では医療提供態勢が逼迫(ひっぱく)していると指摘した。
 日本では感染症法に基づき、重症、軽症にかかわらず感染者を原則として入院させている。今や一律にこの仕組みを維持するのは難しくなってきた。抜本的な対策を早急に講じる必要がある。
 そのため、厚生労働省は3日までに、感染が拡大している地域では、軽症者や症状のない人は、自治体の用意する施設やホテル、自宅での療養を検討するよう都道府県に通知した。
 重症者の治療に重点を置くためだという。指示するのは簡単だが、実施には解決すべきさまざまな課題がある。
 自宅で療養を続けた場合、同居する家族が感染する恐れがある。限られた住居の中で、生活空間を分けることができるのか。事実上、リスクが放置されてしまう。
 「自治体が用意する施設やホテル」と言っても、どうやってホテル従業員を感染から守るのか。専門的な研修が必要になるだろう。常駐する医師、看護師ら医療従事者の確保も重要だ。軽症者を受け入れるホテルは風評被害も懸念される。
 厚労省は諸課題への対処を含め、細部にわたる指針を速やかに示すべきだ。自治体への丸投げは許されない。
 米ニューヨーク市は3月1日に初めて感染者が出た後、1カ月で4万人を超えた。同じ轍(てつ)を踏むことだけは何としても避けなければならない。
 感染爆発を防ぐために全力を挙げる一方で、それが起きてしまったときにどうするのか、備えを万全にしておくことが極めて大切だ。
 まずは検査体制を充実させ、感染の実態をできるだけ正確に把握する必要がある。それによって早期の治療開始にもつながる。
 安倍晋三首相は全国の約5千万世帯に布マスクを2枚ずつ配布すると表明した。数百億円かかるという。ピント外れの印象を受ける。世界保健機関(WHO)は布製のマスクを推奨していない。
 怖いのは医療崩壊である。現場でマスク、手袋、防護具などが不足しないように万全の措置を講じてもらいたい。