<社説>ネット中傷への対応 民間主導で体制づくりを

 ネット上の誹謗(ひぼう)中傷によって貴い命がまた失われた。女子プロレスラーの木村花さん(22)が会員制交流サイト(SNS)上で非難された後、死去した。自殺とみられる。この件が海外でも報じられ、波紋を広げている。

 高市早苗総務相はネット上に書き込みをした投稿者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するための制度改正を検討する意向を示した。国会では自民と立民の与野党代表がルール作りを議論することで一致し、秋までに何らかの方向性を探るという。
 人を傷つける言葉の暴力は許されない。ましてや自殺者が出ることはあってはならず対応が急務だ。しかし政府や国会が表現の自由への介入に無自覚なまま法規制に走ることは非常に危険だ。その規制が公権力を批判する発信も抑え込む道具として乱用される恐れがあるからだ。
 本来は国民を救済するはずの制度を政府が真逆にねじ曲げた例が沖縄にある。名護市辺野古の新基地建設に向けた埋め立て承認撤回を巡り、「国民の権利利益の救済を図る」ことを目的とする行政不服審査法を、国の機関である沖縄防衛局が私人になりすまして利用した。現在も進行中のこの乱用を念頭に置くべきだ。
 ネット上の偽情報対策に関し、総務省は表現の自由の重要性を踏まえて法規制を見送った。同省の有識者会議が、「プラットフォーマー」と呼ばれるIT企業の自主的な取り組みを基本とした対策が適当だと結論付けたことが背景にある。
 とはいえ木村さんの例を含め事態は深刻だ。総務省が設置するネット上の名誉毀損やプライバシー侵害などの窓口には昨年度、約5千件の相談が寄せられた。現行制度では対策が追い付かない。
 投稿者情報の開示手続きを定めたプロバイダー責任制限法は、権利侵害が不明確といった理由で開示されない事例がほとんどだ。開示されず裁判に訴えても費用や時間が膨らみ、被害者の負担は大きい。
このため同省の有識者会議は、投稿者を特定する手続きの簡略化や特定を容易にするために携帯電話番号を開示対象に含めることも視野に入れている。
 しかし重要なのは、政治家や公人への告発や批判を開示対象に含めないことだ。そうした明確な基準を設けた上で、政府や大企業から独立した専門家らでつくる民間の協議体が開示請求を判断する仕組みができないものか。そのような体制を民間主導で築くべきだ。主導権を政府に委ねてはならない。
 ネット上に限らず、街角ではヘイトスピーチなどの誹謗中傷が社会に広くはびこっている。根本的課題は人を傷つけてはいけないという人権意識の高揚だ。政府の対策を待つまでもなく、メディアリテラシー教育や相談窓口の拡充など、社会全体で取り組むべきことは多い。



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