<社説>森友賠償訴訟初弁論 民主主義が問われている


社会
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 学校法人「森友学園」の国有地売却問題に絡む公文書を改ざんした問題で、元財務省近畿財務局職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが国と佐川宣寿元国税庁長官に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。国と佐川氏側はいずれも請求棄却を求めた。

 最大の焦点は、改ざんの事実がどう決められ、佐川氏がどう関わったのかである。公文書改ざんの全容を裁判で明らかにしてほしい。民主主義の本質が問われている。
 森友学園への国有地払い下げ問題は、評価額から約8億2千万円も値引きした格安な価格で国有地が売却されていたことに端を発する。学園の名誉校長に一時就任していた安倍昭恵首相夫人の関与などが国会で追及された。
 安倍晋三首相が「私や妻が関係していたなら首相も国会議員も辞める」と答弁したことをきっかけに、財務省の隠蔽工作は始まった。理財局は昭恵夫人らの名前が記載された書類の存否を調べ、近畿財務局に伝えて交渉記録を廃棄していた。
 改ざんを強制された赤木さんは「学園への厚遇と受け取られる箇所は修正するよう指示があったと聞いた」「抵抗したとはいえ、関わった者として責任をどうとるか」と良心の呵責(かしゃく)に苦しんでいた。赤木さんはうつ病を発症して休職。2018年3月に自殺に追い込まれた。
 手記を公表した雅子さんは、国に真相解明を求めた。これに対し、麻生太郎財務相は「新たな事実が判明したことはない」として再調査を否定した。
 18年6月の財務省の調査報告書は、佐川氏の指示を明確には認めておらず、改ざんに抵抗した職員がいたことにも触れていない。手記の記述と不一致がある以上、再調査は不可欠なはずだ。
 11年施行の公文書管理法1条は公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定義している。
 行政文書は、政策決定過程の記録であり、国民への説明責任を果たすものである。それが消えた。隠蔽工作した役所の調査を額面通り信じる国民がいるだろうか。政府から独立した機関の創設など抜本的な改革が必要だ。
 米国ワシントンDC郊外のカレッジ・パークにある米国立公文書館新館は、第1次世界大戦以降の資料を収集している。沖縄戦関係の記録を閲覧していると、文書の余白に人の顔の落書きがあった。会議中に退屈だったのだろうか。それでも行政文書である。米国は、メモであれ、記録なら何でも保管している。民主主義に不可欠な知的資源だからだ。
 「一番重視するのは夫が自ら命を絶った原因と経過を明らかにすることです」。実名を公表し裁判に臨んだ雅子さんは、弁論ではそう意見陳述した。国と佐川氏側は共に、原告の主張に真摯(しんし)に向き合うべきだ。