<社説>コロナ禍の入国再開 経済、五輪優先は拙速だ


社会
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 政府は来月にも新型コロナウイルスの感染拡大に伴う水際対策を緩和し、全世界からの入国を条件付きで再開する。経済活動再開を重視する菅義偉首相の姿勢を反映した検討だという。

 菅首相は官房長官時にも観光支援事業「Go To トラベル」の前倒し実施を主導した。事業開始後に全国で感染者数が増加しながら、観光回復を重視して人の動きを促進する政策を変えなかった。入国再開も経済優先の見切り発車となれば、さらなる感染拡大を招きかねない。
 政府は現状で159カ国・地域からの入国を原則として拒否している。入国拒否の国から日本に入る場合は14日間は指定の場所で待機を求められる。感染状況が落ち着いているベトナムやタイ、韓国など16カ国・地域とはビジネス関係者に限定した出入国緩和を個別に交渉し、一部で往来を再開している。
 これを10月から、3カ月以上の中長期滞在者について全面的に入国を解禁する。観光客は緩和対象に入れない方針は変えないものの、経済界から要望が強かった駐在員や技能実習生、留学生の受け入れを再開する方向だ。
 入国再開の方針は経済活動再開の重視に加え、来夏に延期になっている東京五輪・パラリンピックに向けた地ならしでもある。政府は23日の新型コロナウイルス対策会議で、大会に参加する選手の入国を出入国時の検査で陰性であることを条件に、特例で受け入れる方針を決めた。
 しかし、五輪は200以上の国・地域から1万人超の選手が集まるイベントだけに、世界的な感染状況にも大きな影響を及ぼす。コロナ禍の五輪開催にこだわる日本政府のメンツだけで突き進むわけにはいかない。
 海外の状況を見ると新型コロナの世界的な流行は一向に衰えていない。世界の新規感染者数は1日に20万~30万人台で推移し、累計の死者数は100万人に届くところだ。
 経済活動の再開や国境を越えた人の移動によってウイルスが持ち込まれ、欧州などでは感染者が再び増加する国が出ている。マレーシアのように、米国やブラジルに対して緩和していた入国規制を再び強化する動きもある。
 沖縄でも一時期に比べて感染拡大に落ち着きが見られてきたとはいえ、改善ペースの足踏みや4連休中に県をまたいだ往来が活発化した影響を見る必要があり、玉城デニー知事は警戒レベルの引き下げを見送る判断をした。人の動きの再開には細心の注意が必要ということだ。
 国によって感染状況や感染症対策に差があり、一気に全世界を対象に入国規制を緩和するという政府の方針には疑問がある。冬場に向かいインフルエンザとの同時流行も想定される。
 新政権の姿勢を見ると経済、五輪優先への拙速感は否めない。慎重な検討が必要だ。