<社説>2021年経済展望 危機の経験を成長の糧に


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新型コロナウイルスが収束して、止まった経済は回復へと動きだすのか、それとも、流行の長期化に伴い蓄積されたダメージが限界を超えて噴出してくるのか。2021年の経済は予断を許さない。

 県内では好況を牽引(けんいん)してきた観光産業が深刻な落ち込みとなり、新型コロナに関連した解雇や雇い止めが昨年末時点で1600人に迫る。国内企業の景況感は輸出を中心に一部で改善が見られるというが、大企業の製造業が少ない沖縄は事情が異なる。
 観光や飲食のサービス業や中小・零細事業者の割合が高い産業構造のため、人の移動を止めた自粛による経営の打撃が大きく、影響を受ける事業者も多い。地域の実態に即した経済・雇用の対策を緻密に講じ、コロナ禍を克服する年としなければならない。
 SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の経験を踏まえて台湾、韓国が新型コロナの封じ込めで成果を出したのに対し、日本の備えは甘かった。昨年2月にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で感染が分かると、沖縄をはじめ寄港地で危機感が高まり、乗客・乗員の隔離や下船方法でも混乱した。
 世界から観光客の受け入れを進めてきた沖縄にとって、コロナの教訓を今後の危機管理にどう生かすかが重要だ。港湾・空港における水際防疫体制の整備、観光施設や市中の感染防止対策の徹底、離島における医療・検査体制の拡充など、観光産業の再構築に向けて課題は少なくない。
 観光は沖縄に比較優位のある産業だ。一方で、自分たちでコントロールが難しい外部要因に左右されやすい側面がある。観光に依存しすぎない産業構造を整えていくこともリスク分散の上で必要だ。
 ビデオ会議システムを活用した場所を問わない働き方やキャッシュレスの浸透など、コロナ禍は社会のデジタル化を一気に進めた。新しい潮流を取り込み、ITによって県内企業の生産性向上や産業の高度化を導ければ、危機の経験は成長の糧となる。
 コロナ危機は、ウイルスという自然界の脅威に世界が直面し、人為的に経済活動を止める事態となった。ワクチンの開発で新型コロナを克服しても、新たな感染症への警戒は続く。温暖化や災害の大規模化といった気候変動の脅威も増している。コロナ後の世界経済は、地球規模の環境問題に一層の対応を迫られる。
 沖縄電力は昨年12月に、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)排出量を2050年までに実質ゼロとする行程表を発表した。石炭火力依存から、再生可能エネルギーへと軸足を移す。離島県にふさわしい目標として評価したい。
 高い目標に挑むことが、事態を打開するイノベーション(技術革新)を誘発する。産業界だけでなく県民全体の目標として、脱炭素社会に向けた取り組みを始めたい。