<社説>案里参院議員辞職 事件の構図、徹底究明を


社会
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 公職選挙法違反で東京地裁から有罪判決を受けた河井案里参院議員が議員辞職した。有罪確定なら当選無効となる前日の辞職だった。失職となる前に自ら辞職を選んだのは遅かったとはいえ当然だ。

 しかし、自ら起こした大規模買収事件に関するまともな説明を一切せず、国民の政治不信を増幅させた責任は大きい。巨額の党費を投じ、案里氏当選を支援した菅義偉首相をはじめ、自民党の責任もあいまいなままだ。公選法違反で逮捕、起訴された夫の河井克行元法相の裁判はまだ続いている。事件の構図と党費の使い道について、徹底究明が必要だ。
 案里氏は2019年、参院選広島選挙区から立候補した。同選挙区では自民現職と野党系候補が2議席を分け合っていたが、案里氏は当時の安倍晋三首相、菅官房長官の強い支援を受け、自民現職を抑え初当選した。その際、自民党本部から現職の10倍に当たる1億5千万円の活動資金が提供された。
 克行被告は地元の議員や首長計100人に計2900万円を配ったとして公判が進む。案里氏はそのうち、選挙前の同年3~5月に克行被告と共謀して広島県議4人に計160万円を渡したと認定した判決が確定した。
 自民党も河井夫妻も捜査で書類を押収されたことを理由に活動資金の明細を明らかにしていない。菅首相は判決後も「広報紙の配布などに使われたと報告を受けている」と述べただけで使途は不明だ。買収の資金だったとの疑念はぬぐえない。そのうち1億2千万円は税金から支出される政党交付金であり、国民として納得できない。
 案里氏には昨年6月に東京地検特捜部に逮捕されてからも歳費と2回の期末手当、文書通信交通滞在費など含め約2100万円が支払われた。疑惑が浮上した19年10月以降、たびたび国会を欠席し、10月の保釈後も本会議を全て欠席した。法を犯したり、職務を果たせなかったりすれば返還させる仕組みが必要だ。
 菅政権発足後、与党議員の辞職は3人目だ。体調不良を理由に昨年末に議員辞職した吉川貴盛元農相は鶏卵生産業者からの現金受領で在宅起訴された。公明党の幹事長代理だった遠山清彦衆院議員は緊急事態宣言下の深夜に銀座のクラブを訪れた上、資金管理団体がキャバクラなどへ支出していたことも明るみに出て辞職した。規律の緩みはいかんともしがたい。
 菅首相も自民党も、安倍前首相の桜を見る会前夜の夕食会費補塡(ほてん)など、安倍長期政権から続く「政治とカネ」の問題について、説明責任を果たそうとはしない。こうした姿勢で国民の信頼を得られるだろうか。
 辞職が幕引きとはならない。菅首相自らの説明が必要なことはもちろんだが、国会は国政調査権を発動して全容を明らかにするべきだ。