<社説>土地規制新法案 私権侵害は認められない

 戦前に戻ったかのような法案が明らかになった。米軍基地などの施設周辺で土地売買を規制するという内容だ。

 不動産取引という経済行為を制限するだけでなく、土地所有者らの思想にまで政府が立ち入る可能性がある。米軍基地が集中する沖縄で適用されれば、私権が侵害されることは明らかであり、政府は法案提出を諦めるべきだ。
 正式名称は「重要施設周辺および国境離島等における土地等の利用状況の調査および利用の規制等に関する法律案」。売買の規制対象に含まれるのは自衛隊や米軍、海上保安庁の施設、原子力発電所、国境の離島の周辺である。
 これらの施設や地域を政府が注視区域、特別注視区域に指定した場合、政府は周辺の土地所有者の個人情報や利用実態を調べることができる。
 普天間飛行場がある宜野湾市、嘉手納飛行場が町面積の8割を占める嘉手納町は全域が対象になり得る。自衛隊配備が進む先島諸島も同様だ。
 法案は「安全保障上の観点から重要施設及び国境離島等の機能を阻害する土地の利用を防止」するというが「安全保障上の観点」とは、政府が決めるものだ。
 「機能を阻害する」行為の定義も曖昧だ。政府が「問題あり」と認めれば、基地周辺の人々が調査対象となる。
 しかも与党の一部に「基地内の運用実態を見られることも問題だ」とする声もあるという。嘉手納町の道の駅や「安保の見える丘」も理屈の上では注視区域にされかねない。
 法が成立してしまえば、調査対象が際限なく広がる可能性が否定できない。表現や結社の自由を認めず、財産を国家が統制した治安維持法の再来ではないか。
 経済的な側面からも合理性は見いだせない。安全保障上、最重要拠点である東京・市ヶ谷の防衛省周辺で不動産取引を規制すれば地価下落など弊害が予想される。外国資本のホテルが多くある沖縄でも投資意欲低下を招きかねない。
 防衛関連施設周辺などの土地規制が政治的な課題に挙がったのは、北海道や長崎県対馬で外国資本とみられる土地の売買があり、地方議会が意見書を可決したからだ。
 世界貿易機関のルールにより、外国資本だけを対象とした規制は差別的対応となり不可能だ。そのため法案は土地所有者の国籍を問わず「安全保障」を名目にしたが、多くの国民を縛ることになった。
 安全保障の観点から土地利用・管理の在り方を検討した政府の有識者会議(座長・森田朗津田塾大教授)は、昨年12月の提言で、安全保障の確保は国民の平穏な生活に資するとして、財産権制約は「公共の福祉により許容される」と結論付けた。
 財産権や内心の自由にも及ぶかもしれない法律が「公共の福祉」の名の下に認められるものか。政府は法案を撤回した上で国民的議論によって規制の必要性を問うべきだ。



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