<社説>東日本大震災10年(2) 原発ゼロを国是とせよ


社会
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 破滅的な事故からエネルギー政策の大転換が不可避であることを学んだはずだ。安全な未来への責任を果たすため、脱原発を国是とすべきだ。

 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故から10年になる。県外へ逃れた人々は今年2月時点で約2万8500人である。原子炉の廃炉のめどは立たず、原子力緊急事態宣言は解除されていない。事故は今も続いているのだ。
 原発事故を教訓とし、日本のエネルギー政策は速やかに「脱原発」へかじを切るべきだが、国は原発を温存する方向へ進んでいる。
 政府の「エネルギー基本計画」は再生可能エネルギーへの取り組みを強化する一方で、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた。
 菅政権が温室効果ガス排出量を50年に実質ゼロとする目標を掲げ、昨年12月に発表した「グリーン成長戦略」も原発に関しては「依存度を低減しつつも、引き続き最大限活用する」としている。
 その一方で、原発事故を受けた法改正で原発の運転期間を原則40年とする「40年ルール」が導入された。しかし、40年超の関西電力高浜1、2号機や美浜3号機の再稼働に必要な地元自治体の手続きが進んでいる。教訓から生まれた原則が形骸化している。
 10年間、政府は福島の惨事から何を学んだのかと言わざるを得ない。
 脱炭素は国際的な潮流だ。日仏英の国際チームの報告によると、世界全体の再生エネルギーによる発電量は19年、初めて原発を上回った。発電コストも原発の1キロワット時当たり15・5セント(約16円)に対し、太陽光や風力は4セント程度とはるかに安い。原発事故による人身被害、その後の廃炉や除染などに要する年月とコストを考えれば、これ以上原発に依存する選択はあり得ない。
 福島を教訓にしているのがドイツだ。事故を受けドイツは11年6月、脱原発を閣議決定した。22年末には国内にあった17原発全てが止まる予定だ。この政策についてメルケル首相は「福島で、原発が甚大な結果をもたらすことを学んだからだ」と説明している。
 昨年のドイツの総電力に対する原子力の割合は12・5%で、再生エネルギーは50・5%に達した。それに対し、日本はエネルギー基本計画で30年度の原発の発電割合は20~22%を目標としている。
 同国のシュルツェ環境相は共同通信の書面インタビューで「原子力は危険かつ高コストで、各国に利用中止を呼び掛けたい」と指摘した。これらの言葉こそ、日本の首相から発せられるべきだ。
 日本世論調査会が今年実施した世論調査によると76%の人が脱原発を求めていることが分かった。再び深刻な原発事故が起きる可能性があると答えた人は90%に上った。
 脱原発は国民の声である。そのことを踏まえ、原発ゼロを目指すエネルギー政策を確立しなければならない。