<社説>コロナ禍での五輪 中止を決断すべき時だ

 政府は28日、新型コロナウイルス対策である緊急事態宣言を9都道府県で6月20日まで延長すると発表した。会見で菅義偉首相は宣言下での東京五輪・パラリンピックの開催について「準備を進める」と述べ、観客を入れる方向で検討することも表明した。

 だが宣言期限までに収束する科学的根拠はない。むしろ拡大を予期させる材料ばかりだ。感染力の強い英国やインド由来の変異株が広がる中、ワクチン接種は追い付いていない。世界を見ても接種が進んでいるのは欧米の一部だけだ。医療の逼迫(ひっぱく)は限界に近い。
 こうした状況を踏まえ、五輪開催に国内外で強い不安の声が広がっている。菅首相は国民の生命や健康を最優先し、開催中止を決断すべきだ。
 首相はワクチンを「切り札」として、7月末までに全高齢者への接種完了を目指す。だが12日発表の政府調査では市区町村全体の14%が7月末までに完了できないとしている。7月23日開会の五輪期間中、国民の大半が未接種だ。
 米国の感染症の専門家は五輪開催の推進は「最善の科学的根拠に基づいていない」とし「中止が最も安全な選択肢かもしれない」と指摘する。9万人以上の関係者が集う五輪が「一大感染イベント」になる可能性に、世界から懸念の声が相次いでいる。
 しかし首相はじめ国際オリンピック委員会(IOC)など関係者は開催に前のめりだ。開催ありきの発言や姿勢が国内外から批判を浴びている。共同通信による今月中旬の世論調査で約6割が中止を支持した。民意とかけ離れた祭典の開催に、なぜこだわるのか。
 五輪に詳しい米パシフィック大のジュールズ・ボイコフ教授は理由は三つだとして「カネとカネ、そしてカネだ」と指摘する。そのほとんどが選手たちに使われず、大会の運営や放映、出資する人々の手に入ると説明する。米有力紙ワシントン・ポストはIOCのバッハ会長を「ぼったくり男爵」と呼んだ。開催に突き進む理由が一部関係者の利権だとすれば、言語道断だ。
 現状での開催は意義を失っている。五輪憲章は機会の平等を掲げるが、コロナ禍で準備不足の選手がいるほか、医療従事者を五輪のために確保することにも不公平感がある。選手間や住民との交流も難しい。今や政府が唱える「復興五輪」や「コロナに打ち勝った証し」は空虚に響く。
 野村総合研究所の試算では中止した場合の経済的損失は約1兆8千億円。昨年や今年初めの宣言下での損失各6兆円以上よりはるかに少ない。むしろ五輪が感染拡大を招いた場合の損失の方が大きい。
 コロナ禍で生活困窮者が急増した。五輪費用を困窮者支援に充てる発想も必要だ。県出身を含め選手にとっては残念な状況ではある。だが判断の先送りは事態の悪化を招く。論理性と柔軟性を欠き、一度決めたら止められない政治に国民の命は預けられない。



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