漁業者が操業していたかもしれない真昼の海上で事故が起きた。在沖米海兵隊のCH53E大型輸送ヘリコプターがつり下げていた鉄製コンテナ1個を渡名喜村沖で海中に落下させた。
玉城デニー知事は「大惨事につながりかねない」として米軍に厳重抗議する考えを示した。しかし、抗議だけでは生ぬるい。事故のたびに県は原因究明と再発防止の徹底を求めてきたが、事故は繰り返されている。
米軍だけでなく危険な訓練に歯止めを掛けられず自国民の命を危険にさらしている日本政府の責任は重い。もはや訓練空域・水域を返還させるしかない。同時に、米軍に特権を与えている日米地位協定を抜本的に見直し、国内法を適用させるべきだ。
沖縄の施政権返還(日本復帰)から来年で50年を迎える。返還前の1965年に読谷村で、米軍が投下したトレーラーが直撃して少女が亡くなった。返還後も落下事故は70件以上発生。墜落事故は50件を超える。不時着などを含めるとさらに数字は膨らむ。
沖縄返還後の米軍基地の提供の仕方(使用目的・条件・期間など)は、日米地位協定に基づく日米合同委員会で決まった。「5・15メモ」と呼ばれるこの合意によって、訓練空域や水域も設定された。当事者であるはずの沖縄県を除外した決定だった。
その地位協定は米軍に治外法権を認めている。琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は「地位協定に訓練に関する規定はなく、全て移動という名目で訓練している。米軍がどこを飛んでも規制できない」と指摘する。つまり、危険な訓練に歯止めがかけられないのである。
玉城知事は、日本復帰50年に合わせて米軍専用施設の全国比を「50%以下」とする数値目標を政府に求めている。具体的な返還施設は示していないが、6月県議会で「広大な空域・水域が直接、間接的に、県民および国民に広く害を及ぼしていることから、返還を求めていくことが筋だろう」との考えを示した。
沖縄周辺は29カ所の水域と20カ所の空域が米軍管理下に置かれている。提供空域と水域の現状について県は「さまざまな制限が設けられているため、その結果、陸地だけでなく、海も空も自由に使えない状況になっている」(「沖縄の米軍基地」)と指摘している。
しかも今回、落下事故を起こした海域は提供区域外だ。広大な空域と水域を設定した上に、県民が自由に使えるはずの水域にコンテナが落下したのである。沖縄の陸海空は米軍に囲いこまれている。
訓練空域と水域の返還は沖縄県として当然の要求である。日本の領土・領空・領海内には全て国内法が適用されなければならない。主権国家としてあるべき姿を取り戻すため、日本政府は日米地位協定を見直すべきだ。