<社説>高江派遣手続き違法 「政警分離」曲げた責任重い


社会
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 米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設工事への機動隊派遣を巡る控訴審判決で、名古屋高裁は派遣を決めた手続きに違法性があったとして請求を棄却した一審判決を変更した。

 高裁判決は、公安委員会の政治的中立性を曲げ民主主義で重視される手続きを無視したことを違法と判断した。警察がヘリパッド建設という国策遂行に利用され「政警分離」の原則が骨抜きにされたのである。警察組織だけでなく日本政府の責任は重い。猛省すべきだ。
 愛知県警は2016年7~12月、沖縄県公安委員会の援助要求を受け、東村高江周辺の米軍ヘリパッド工事に伴う資材搬入の警備などに従事。愛知の他、東京、千葉、神奈川、大阪、福岡の5都府県の機動隊員らも派遣された。
 都道府県公安委員会には、警察という実力組織が政府や与党、都道府県知事など時の権力の手足とならないように、民主的に管理し、政治的な中立性を確保することを求められている。いわゆる「政警分離」である。
 倉田慎也裁判長は、派遣を巡って政治的・社会的に対立があり、反響が大きいなどとして、事前承認が必要だったと指摘した。派遣決定が愛知県警本部長の専決で処理された点を問題視し「決定は愛知県公安委員会の実質的意思決定に基づいておらず、違法だと言わざるを得ない」と判断した。「政警分離」の原則を逸脱し政治的中立を担う公安委員会の機能を骨抜きにした行為を違法としたのである。
 さらに、高裁判決は米軍北部訓練場のN1地区ゲート前に市民が設置したテントや、車両を機動隊が撤去したことを「違法である疑いが強い」と判示した。警察の検問や撮影も「適法あるいは相当性については疑問」とした。警察という実力組織を使って市民を弾圧し、国策を遂行する行為を厳に戒めたのだ。
 ヘリパッド建設は北部訓練場返還の条件だった。16年7月、県内外から機動隊員を集め圧倒的な警察力を使って人口の少ない地域に負担を押し付けた。反対する住民らを強制排除する中で大阪府警による「土人発言」も飛び出した。完成に伴い同年12月に北部訓練場の過半が返還された。
 菅義偉官房長官(当時)は「沖縄の負担軽減に大きく寄与」と強調したが、まやかしに過ぎない。返還地の上空に設定されている制限空域は縮小されず、米軍機が発する80デシベル以上(パチンコ店内に相当)の騒音測定回数が最大5・4倍に増加した。
 名古屋高裁判決について沖縄での訴訟の弁護団メンバーは「実体を正しく評価した判決だと感じる」と評価した。
 同種の訴訟は東京、福岡、那覇の地裁でも起こされ、いずれも一審で住民側の訴えが退けられている。法治主義を曲げた安倍「1強」政治のひずみを、司法の場でただしてもらいたい。