米バイデン政権が来年初めにも策定される新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で先制不使用宣言に意欲を示していることに、日本政府が懸念を伝えた。核軍縮への小さな一歩にすぎない宣言だが、唯一の戦争被爆国である日本がなぜ反対するのか。岸田文雄首相は積極的に支持を表明すべきだ。
オバマ政権も2016年に広島訪問を機に宣言を検討したが、日本やNATO諸国の反対で断念している。日本を説得するのが難しいと判断したことが大きな理由だったと、後に明らかになった。
オバマ政権の副大統領だったバイデン氏は、大統領就任前に、核保有の目的を核攻撃抑止と報復に限るべきだと述べていた。先には核兵器を使わない、核兵器保有の唯一の目的は米国・米軍・同盟国に対する核攻撃を抑止し必要なら報復することにあると宣言することで、核戦争のリスクを減らそうというのである。
今年8月、ペリー元米国防長官ら米国の元高官、核問題専門家と科学者らの団体が、バイデン政権の先制不使用宣言に反対しないよう要請する公開書簡を日本の政党党首らに送った。宣言は同盟国に対する核攻撃の抑止に影響しないと指摘し、廃絶に向けた一歩である宣言を被爆国の日本が阻止することになれば「悲劇的だ」と強調した。
しかし、日本政府は、核兵器以外の攻撃を抑止するためにも米国の核による報復の脅しが必要という立場を変えていないのであろう。日本を攻撃したいと考える国にとっては、核兵器を使わない限り米国から核で報復される恐れがないので、攻撃に踏み切りやすくなるというのだ。核兵器以外の報復は恐れないというのもおかしいが、被爆国日本が核兵器を威嚇に使うことは、まさに「悲劇」である。
そもそも、同盟国への攻撃に核で報復するという「拡大核抑止(核の傘)」が本当に機能するのかという批判もある。核兵器を使えば米国も核報復を受ける。全ての核攻撃を迎撃・阻止することは困難だと指摘されてきた。米国は、同盟国を守るために自国民を核報復の犠牲にする可能性が高いのである。「拡大核抑止」は矛盾に満ちている。
4月に国会で当時の茂木敏充外相が核先制不使用宣言について「全ての核兵器国が検証が可能な形で同時に行わなければ実際には機能しない」と答弁している。そうなら、米国の宣言を支持した上で各国に先制不使用宣言を求めていくべきではないのか。日本政府はかねてから核廃絶に向けて保有国と非保有国の「橋渡し役」をすると表明してきた。その第一歩だ。
核兵器禁止条約もすぐ批准すべきだ。そして北東アジア非核地帯構想を進める方が、敵基地攻撃能力を論じるよりも日本の安全につながる。
核戦争の惨禍をよく知る広島選出の首相だからこそ、今、決断をすべきである。