岸田文雄首相は、原油価格の高騰を抑えるため、米国と協調して国家備蓄の一部を市場に放出する考えを明らかにした。
価格引き下げを目的とした放出は初めてだ。法的根拠をはじめ、政策の効果、政府が目指す脱炭素の動きとの整合性など問題点は多く、拙速感は否めない。離島県沖縄でガソリン価格抑制につながるか不透明だ。
石油備蓄法によると、備蓄を取り崩せるのは災害の発生や政情不安による供給不足の場合に限られている。今回のように価格高騰を抑えるための放出は規定していない。
湾岸戦争や東日本大震災を受けて過去に5回放出したことがある。だが、1リットル当たり185・1円の最高値をつけた2008年にも放出しなかった。必要な法改正をせず、なぜ放出できるのか。明確な説明が必要だ。
放出しても供給量が増えるのは一時的だ。いったん価格が値下がりしても効果は長続きしないという見方がある。
24日午前の東京商品取引所は、中東産原油の先物が大幅反発した。23日のニューヨーク原油先物相場も続伸している。石油備蓄放出策の効果に懐疑的な見方が市場に広がっているからだ。中東などの産油国が、増産を抑制して放出に対抗するとの観測もあって買いにつながっている。これでは逆効果だ。
価格高騰を抑える方法として、ガソリンにかかる揮発油税などの税率を一定条件で時限的に引き下げる「トリガー条項」がある。発動には関連法改正が必要だが、なぜこの方法を採用しないのか。理解に苦しむ。
供給不足による原油価格の高騰に加え、円安ドル高によって原油の輸入価格が上昇している側面もある。24日の東京外国為替市場の円相場は1ドル=115円近辺の円安ドル高水準で推移した。米国の金融緩和縮小や利上げが進むとの観測からだが、日本も円安傾向に歯止めをかける金融政策の変更が求められている。
一方、沖縄は復帰特別措置法により、国税の揮発油税と地方揮発油税が軽減されている。軽減分の一部を県が独自に石油価格調整税として徴収し、離島への海上輸送費をほぼ全額補助するため、仕組み上は本島も離島も価格は変わらない。しかし、離島は販売量が少なく給油所の規模も小さい。経営上の問題が絡み、軽減策を上回ってガソリン価格が上昇しやすい。
沖縄を含む地理的にハンディのある地域や、冬場に灯油の需要が増える寒冷地、低所得層、中小の運輸業者、農林水産業などに対する支援策を優先すべきではないか。
備蓄石油の放出は、結果的に二酸化炭素(CO2)の排出量増加につながりかねないとの見方もある。石油や石炭など化石燃料への依存を減らす「脱炭素社会」実現という長期目標が揺らぐことがあってはならない。